2015_05_01
「私は城が好きである。あまり好きなせいかどの城址に行ってもむしろ自分はこんなものは嫌いだといったような顔を心の中でしてしまうほど好きである。」(司馬遼太郎)
先日、実に30数年ぶりに青森県弘前市にお伺いいたしました。初めて弘前にお伺いしたのは、まだ大学2年生の冬休みの時で、「冬の東北一周一人旅」の時に行って以来の弘前です。え?冬になぜ東北を一周したかって?いや〜なんと申しましょうか、北に行くならやっぱり冬の方が北の情緒を満喫できるのではないだろうかというようなところでしょうか(笑)。その当時は、上野から夜行急行で一晩かけて青森県に入って行くわけです。岩手県内に入ると窓の外は吹雪になり、窓のガラスは私の息でたちまちに曇っていきました。まさに『津軽海峡冬景色』のまんまなのです。夜明けの青森県の野辺地に降り立った時の寒さは、「寒い」というより「痛い」という感覚の風でして、「これが、東北の冬の風か!」と思う私でした。そこから列車を乗り継いで、下北半島の突端、大間岬を目指してひたすら北上したのです。この列車旅で深く私の心に残っているのが、同じ列車内で交わさせていたおじいちゃんおばあちゃんの会話です。全くわからなかった!何を言っているのかわからない会話が飛び交っておりました。「ここは日本だよなあ」と考え込んでしまうほどわからなかった(笑)。これが私と青森の方言との出会いです。
それともう一つの思い出がありまして、下北半島といえば恐山の「いたこ」でしょう。「いたこ」は東北地方で「巫女」を意味し、亡くなった方の霊を呼んで憑依し現世の者と話をするといいたことをするおばあさんたちのことです。ちょっとわかりずらくてすみません。その「いたこ」を見たくて、恐山まで行ったのですが、なんと冬の時期はお休みでした。考えてみれば、こんなクソ寒い時期に「いたこ」のおばあちゃんたちが外に出ているわけがない(笑)。
そんなこんなで下北半島をあとにして、青森市を経て、弘前へと向かったのです。青森県の旅の目的のひとつが弘前城を見ることでした。日本中にはいくつもの城がありますが、その多くが昭和30年代以降の再建されたものがほとんどです。日本の城の天守の中で国宝または重要文化財に指定されているのは12か所だけなんですよ。しかも関東から北で重要文化財にしてされているのは弘前城の天守だけです。日本七名城のひとつにも挙げられておりまして、「この城が津軽平野に出現したこと自体奇跡に近い」(街道をゆく「北のまほろば」)と司馬遼太郎さんが書いているほどなんですよ。今回、弘前には、夜の7時半後に到着しまして、ホテルに荷物を置いてすぐにタクシーで弘前城へと向かいました。タクシーが近づくにつれて、桜が見え始めて私の心も弾んできます。この季節ですから何としても桜に彩られた弘前城が見たくてたまりませんよ。
ここでちょっとマニアックなお話。弘前城は江戸時代の初めに今とは違う場所に天守が作られたのですが、落雷で焼失してしまい、残った櫓のひとつに天守に準ずるような装飾が江戸時代の終わりごろの1860年代に施されて、今、私たちが見上げるあの天守となっているのです。私が初めて見た時は、若干の雪が天守の屋根に残っていて、全体のその美しさに驚きました。そして、今回は春の始まった弘前城を訪れたのです。桜はまだ五分咲きといったところでしたが、それでも十分に城とのコラボレーションが楽しめまるだろうと思って向かいました。
今回は、弘前城の東門から入って行きました。この門も重要文化財にしてされています。夜の8時ごろにもかかわらず結構多くの人が訪れておりました。門をくぐって場内を進むこと約5分で、見えてきた天守は30年前と同じ姿で私を迎えてくれました、当たり前か。思わず声をあげてしまうほどに美しい姿が目に飛び込んでくるではありませんか。待ったいてくれてありがとう!程よい高さと曲線美の堀の石垣の美しさもそのままです。こんな言い方もマニアックでしょ?橋を渡りゆるやかな坂を上り本丸に到着です。ここで弘前城の天守閣の面白さに気が付く方はなかなかの城マニアでしょう。ここに至るまでの見た目は、建物としての美しさが目立っていたのですが、本丸に登って見上げた天守の姿はどことなく物足りないような姿に一変するのです。本丸側にはほとんど天守としての飾り、装飾がなされていないのです。このギャップを楽しむのも城マニアなのです。さらに、この本丸の登った時に感じるのがその敷地の広さと空の広さでしょう。初めてここに来た時みたこの広々とした空間の向こうに岩木山がそびえているのが誠に美しいのだ。今回は、夜で全くわからなかったけど、前には味わえなかった夜空と桜が満喫できたので満足です。ホントに広い夜空はこんな時にしか味わえないもんねえ。
とまあ、こんなマニアックな話ですみませんでした。お城に興味のない方には面白くもなんともない今回のお話でした。え〜、次回は万人が楽しめるようなお話になることを願いつつ、バイなら。古!